事業計画書とピッチ資料の違い|融資・補助金・投資家で変わる作り方
「事業計画書を用意してください」と言われても、すぐには作り始められないことがあります。金融機関への提出用か、補助金申請用か、出資を検討する相手に渡すものかによって、必要な内容が変わるためです。
同じ「事業計画書」という呼び方でも、提出先によって確認される内容は異なります。ピッチ資料で代用できるのか、両方用意する必要があるのかも、用途を確認しなければ判断できません。
この記事では、弊社がスタートアップのピッチ資料制作に携わってきた経験をもとに、書類ごとの役割とピッチ資料との作り分けを解説します。
- 4タイプある「事業計画書」とその役割
- ピッチ資料と事業計画書が、それぞれ使われる用途と形式の違い
- ピッチ資料に登場する用語の意味と、資料に載せるときの注意点
- 数値や将来の見通しを表現する際に関わってくる法制度
1. タイプ別 「事業計画書」とその役割
最初に確認したいのは、事業計画書の提出先(プレゼン先)です。同じ名称の書類でも、誰が読むかによって、確認される内容や様式の自由度、必要な分量が変わります。
| 種類 | 渡す相手 | 重視される点 | 様式 |
|---|---|---|---|
| 融資向け | 銀行・日本政策金融公庫 | 返済能力、計画の現実性 | 指定の書式がある |
| 補助金向け | 行政・補助金の事務局 | 政策目的との整合、記述の具体性 | 指定テンプレートを使用 |
| 投資家向け | VC・エンジェル投資家 | 市場規模、成長の筋道、チーム | 指定なし |
| 社内共有向け | 経営会議・各部門 | 実行計画、KPI、責任分担 | 社内の書式に準じる |
融資向けの事業計画書では、事業を実現できる見込みと、返済能力を客観的な根拠で示せているかが確認されます。創業前や創業直後は決算書などの実績資料がないため、事業計画書が主な判断材料になります。
補助金の申請では、事務局が配布するテンプレートを使うことが多く、記載項目もあらかじめ決められています。そのため、構成を大きく変えることはできません。制作では、指定された枠内で情報をどう整理し、図表をどこに配置するかを検討します。
投資家向けの事業計画書には、決まった形式がありません。自由度が高いぶん、何をどこまで載せるかを作り手が決める必要があります。ピッチ資料との作り分けが必要になるのも、主にこの用途です。
制作に入る前に、その事業計画書をどこへ提出するのかを確認します。途中で用途が変わると、様式だけでなく、分量や説明の細かさまで見直さなければなりません。
融資向けは「創業計画書」との呼び分けもある
政策金融公庫などで、融資を取り扱うケースでは、「創業計画書」と「事業計画書」を区別することがあります。創業計画書は、これから起業する人が事業の内容や見通しを示す書類です。一方、すでに事業を営んでいる企業が追加の借入や条件変更に際して作る書類は、事業計画書と呼ばれます。前者では「これから何をするか」、後者では「何をしてきて、今後どう伸ばすか」を示します。
事前に目的と用途を確認することで、様式の選び直しを避けやすくなります。
事業計画書のつくり方を解説した書籍
ここまでは資料制作の視点から違いを見てきましたが、事業計画の立て方から確認したい場合は、専門の解説書も参考になります。
ここでは、筆者の先輩で、事業計画の作成やIPO支援などを専門とする方の著書をご紹介します。初めて事業計画書を作る方でも、用語の意味から実務での使い方まで順を追って確認できます。
最新 知りたいことがパッとわかる 事業計画書のつくり方がわかる本
架空の新規事業を題材に、アイデアを事業計画書へ落とし込む過程をサンプルで追えます。構成・数字・文章・時間軸を、どのように組み立てるかが順に解説されています。
そのほかの著書は下記のページでご確認いただけます。
2. ピッチ資料と事業計画書は、使われる工程が違う
投資家への説明では、まずピッチ資料で関心を持ってもらい、その後、事業計画書で詳しい内容を確認してもらいます。どちらか一方を選ぶのではなく、検討の進み方に応じて両方を使います。
ピッチ資料を要約版、事業計画書を詳細版と捉えることもできます。ただし、両者で違うのは情報量だけではありません。使われる形式も変わります。
| ピッチ資料 | 事業計画書(投資家向け) | |
|---|---|---|
| 使うシーン | 初回の面談、登壇の場 | 検討が進んだ後の精査 |
| 話者 | いることが多い | いないこともある(読まれる) |
| 分量の目安 | 10〜15枚 | 数十ページ規模 |
| 形式 | スライド | 文書、表、財務モデルを含む |
| 意味合い | プレゼン | 精査対象 |
| 求められるもの | 成長の筋道が伝わること | 数字の裏付けをたどれること |
ピッチ資料では、スライドに載せきれない内容を話者が口頭で補えます。持ち時間が短ければ、スライドの枚数も抑えなければなりません。そのため、何を載せ、何を話して補うかを選ぶことが設計の中心になります。
(※「ピッチ」とは本来、3〜5分ほどで事業の魅力を伝え、投資家などの関心を次の検討へつなげる短いプレゼンテーションを意味する用語です。)
事業計画書は、話者がいない状態でも読まれます。その場合、必要な情報を口頭で補えないため、読み手が資料だけで内容や根拠を確認できる作りが必要です。
事業計画書の段階では、スライド以外の形式が増える
詳細の確認(デューデリジェンス/DD)に進むと、投資側から必要書類の一覧が示されます。企業側は、指定された契約書や財務諸表、指標の推移表などをまとめます。この段階では、見せ方を整えたスライドよりも、数値や事実を確認できる原資料が中心になります。
ピッチ資料では、比較的あいまいな表現や出所の不明な数値を使うことが出来ても、事業計画書のフェーズではしっかりとした根拠が必要になりますので、単にページを増やせば良いという訳ではない点も押さえておきましょう。
ピッチ資料に載せた数値は、算出に使った元データの保存先も記録しておきます。事業計画書を作る際にすぐ照合でき、確認にかかる時間を短縮できます。ファイル名に更新日を入れておけば、古い版との取り違えも防ぎやすくなります。
3. ピッチ資料に登場する用語と、資料への落とし込み
ピッチ資料には、この領域特有の用語が数多く登場します。ここでは用語の意味だけでなく、資料に載せる際にどの情報を添えるかまで整理します。
用語の理解はもとより、スライドに載せる段階で、算定条件や対象期間などの抜けに注意が必要です。
| 用語 | 意味 | 資料化での注意点 |
|---|---|---|
| TAM/SAM/SOM | 市場規模の3層構造 | 各層の定義・算定根拠・基準年を示す |
| LTV | 顧客生涯価値 | 算定式を注記する |
| CAC | 顧客獲得コスト | 含めた費用の範囲を明記する |
| ユニットエコノミクス | LTV÷CAC | 倍率だけでなく分子と分母も示す |
| チャーンレート | 解約率 | 基準(金額・人数等)を示す |
| MRR/ARR | 月次・年次の継続課金収益 | 対象を明記する |
| バーンレート | 月あたりの資金消費額 | 総額か純額かを明記する |
| ランウェイ | 手元資金が尽きるまでの期間 | 算定の基準時点を添える |
| 用語 | 意味 | 資料化での注意点 |
|---|---|---|
| シード・アーリー ミドル・レイター | 事業ステージ | 事業の進捗や検証状況を示す |
| シード/シリーズA・B・C | 投資ラウンドの呼称 | 今回のラウンドと資金使途を示す |
| PMF | 製品が市場に受け入れられた状態 | 根拠となる指標を示す |
| トラクション | 事業の実績と成長の推移 | 単発の数値ではなく推移で示す |
| エクイティストーリー | 株式投資家向けの成長シナリオ | 事業計画書側の記述と整合させる |
| デューデリジェンス | 投資判断前の詳細な確認 | 裏づける根拠資料を用意する |
| バリュエーション | 企業価値の評価 | 算定方法・前提条件を示す |
今回はピッチ資料落とし込みの際にしばしば発生し得る3つの事例を見ていきます。
指標の算定条件と基準時点が抜けている
複数の数値から算出する指標は、計算の前提が分からなければ正確に読み取れません。たとえばLTVは、継続課金型の事業では平均売上や粗利、解約率などから算出します。一方、物販では購入単価・購買頻度・継続期間をもとに積み上げる方法があります。同じLTVでも、業態や目的によって計算方法は異なります。
数値だけを大きく見せると、読み手は自分が想定した計算式で解釈します。事業計画書と原資料を照合した際に計算の前提が違っていれば、数値をあらためて確認しなければなりません。
資金があと何か月持つかを示すランウェイも同様です。一般には、手元資金を月間の資金減少額で割って算出します。そのため、手元資金の基準日と、資金減少額の算定期間を明記します。面談から投資判断までに数か月かかることもあるため、基準時点のない数値では、いつの状況を示しているのか分からなくなります。
「LTV/CAC=3.4倍」「ランウェイ18か月」とスライド中央に大きく置き、算定式・対象期間・基準時点の記載がない。
LTV/CACの下:2026年1〜6月実績|有料契約のみ|算定式はAppendix
ランウェイの下:2026年6月末時点|直近3か月平均ネットバーンで算定
略語だらけで難読化する
投資を専門とする相手であれば、この領域の略語は説明しなくても通じますが、エンジェル投資家など専業でない投資家の方もいるので注意が必要です。
また、事業会社が投資を検討する際は、投資部門だけでなく、事業部門や法務・経理も資料を確認することがあります。金融機関と並行して協議していれば、同じ資料を別の相手に使うこともあります。読み手が広がるほど、略語だけでは内容が伝わりにくくなります。
一方、略語が出るたびに注釈を付けると、スライドが読みにくくなります。最初に登場するページで正式名称と日本語訳を示し、以降は略語に統一するか、巻末に用語一覧をまとめて設ける方法もあります。
- ピッチ資料が誰の手に渡る可能性があるかを、制作前に想定する
- 略語は初出のページで展開し、同じ注釈を各ページに繰り返さない
- 指標の名称が業態によって別の意味を持つ場合は、自社の定義を明記する
市場規模の図で、数字だけが主役になっている
TAM/SAM/SOMの3層構造には、同心円やピラミッドの図がよく使われます。見栄えを優先して金額だけを大きくすると、出典や調査年が図の隅に追いやられ、読めないほど小さくなることがあります。
投資家が確認するのは、金額の大きさだけではありません。市場をどのように絞り込んだのか、その過程も見ています。市場全体から自社が提供できる範囲へ、さらに現実に獲得できる範囲へと絞った根拠を、資料上でたどれるようにします。
市場規模は、統計データから割り出す方法と、顧客数や単価から積み上げる方法の両面から示すと、算出の妥当性を確認しやすくなります。計算過程まで図に収まらなければ、次のページに分けて示します。
情報が多い場合は、図には金額と出典だけを残し、算出の内訳を別ページに分けると読みやすくなります。
4. ピッチ資料の数値表現に関わる法制度
投資家向けの資料を作る際は、金融商品取引法との関係も確認する必要があります。この法律は投資家を保護するための枠組みで、登録を受けた業者の行為や、広く一般から資金を集める行為などを規制しています。
特定の投資家との個別面談でピッチ資料を提示しただけで、直ちに規制の対象になるわけではありません。
ただし、登壇時の資料や動画を公開する場合など、不特定多数に向けて発信される際は注意が必要です。新たに発行する有価証券について、多数の相手に取得を勧誘する行為は「募集」として扱われ、原則として届出が必要になります。この人数は、実際に株主になった人ではなく、勧誘した相手を基準に数えます。
将来の成果を断定する表現にも注意が必要です。「確実に拡大する」「必ず達成する」といった書き方は避け、予測の前提や条件が分かる形で示します。
- 公開版と個別提示版を別のファイルで管理する
- 公開版には、具体的な調達予定額・時期・株式の条件を載せない
- 将来の見通しには、予測の前提条件を添える
- 市場の成長を示す場合は、出典と調査時点を併記する
公開の場で事業の成長を示すなら、調達条件ではなく、利用者数や導入社数などの事業指標を使う方法もあります。
※金商法はじめ各種法令の適用範囲は資料の内容や公開方法によって異なるため、個別の判断は社内の法務部門や顧問弁護士にご確認をお願いします。
5. 制作の進め方
どの書類から作り始めるかは、資金調達の進め方によって変わります。デット・エクイティ(融資と出資)を並行して検討する場合は、どちらにも使える情報と、提出先に合わせて作り分ける情報を先に分けておくと、制作を進めやすくなります。
弊社では、2026年8月までに3,000件以上の資料制作に携わり、資金調達の段階に応じたピッチ資料も制作してきました。(現在のサービスへ統合する以前にはピッチ資料専門制作サービスも行っていました。)初回面談で使うピッチ資料から、その後の精査に必要な書類まで、一貫してご相談いただけます。
6. まとめ
- 事業計画書は、提出先によって役割や必要な内容が変わります
- 融資向けでは返済能力、補助金向けでは指定様式への適合が重視されます
- 投資家向けには決まった様式がなく、実践的な訴求力が問われます
- ピッチ資料と事業計画書では、情報量だけでなく使う形式も異なります
- 指標には、算定式・対象範囲・基準時点を添えます
- 略語は最初に正式名称を示し、誰が読む資料かも確認します
- 投資家向けの資料は、金融商品取引法が関わることがあります
資金調達に向けた資料制作をご検討の際は、是非ご相談ください。提出先に応じた作り分けや指標の表記を確認し、具体的な改善点をお伝えします。

