営業資料の場面ごとの使い分け術|「見せる資料」と「送る資料」
商談で使った資料をそのままPDF形式などでお送りする。この流れは多くの企業で定着しています。ファイルが1つで済み、話した内容と送った内容も一致し、合理的ですよね。
ところが、送ったあとの反応が鈍い。社内で検討が進んでいる様子もない。なんてことはよくある話です。プレゼン用の資料をそのまま送付用に転用したいというご相談は実際に多くいただきますが、使われる場面によっては、求められるものが異なることがあるので注意が必要です。
弊社で営業資料や提案書の制作に携わってきた経験から、見せる資料と送る資料の設計の違いを整理しました。
- 「見せる資料」と「送る資料」で、情報量の考え方が異なる理由
- 簡潔にまとめ過ぎもほどほどに。本編とAppendixの分け方
- AI時代を想定した作り
- 数値や事例を載せる際に押さえておく表示の考え方
1. 読む速度を誰が握るかで分かれる
この2つを分ける基準は、基本的に話者がいるかどうかであり、その違いは読む速度の主導権が、どちら側にあるかに影響を及ぼします。
投影資料には話者がいて、ページをめくるのも話者、聞き手は話者のペースに乗ります。順に一度だけ流れていき、聞き手が戻ることも飛ばすこともありません。書かれていない部分はトークでカバーする前提です。
送付用資料では、この前提が崩れます。読み手は好きな順に開き、興味のない箇所を飛ばし、気になる箇所へ戻り、途中で閉じる、といった行動をとるでしょう。ですので、作り手が強調したい箇所がスルーされる事が予想されるため、工夫が必要なケースがあります。
| 見せる資料 | 送る資料 | |
|---|---|---|
| 速度の主導権 | 話者が握る | 読み手が握る |
| 1枚の情報量 | 絞る | 絞る(本編はなるべく) |
| 全体の分量 | 短いほうがよい | 薄いと不利になることもある |
| 補足の手段 | 口頭で足せる | 資料内に置く必要 |
| 読まれ方 | 話者のコントロール | 読者に依存 |
| 届く範囲 | その場の参加者 | 一人歩きする可能性 |
一般論としては、どちらも「1枚あたりの情報量は絞る」に行き着きますが、全体の分量では別の視点が必要です。
1枚を絞ることと、全体を短くすることは別の話です。送る資料では、1枚を絞ったうえでトータルの情報量を確保するという事が重要になってきます。また、送付後に資料が「一人歩き」する可能性も考慮し、掲載する情報のリスク管理も必要になります。
2. 「見せる資料」は、スライド原稿より先に台本と構成を固める
見せる資料の出来は、スライド制作着手よりも前の工程が重要です。
使用を予定している場面を想定し、予め決めておくことが2つあります。どこを結論として置くか(落としどころ)。もう一つは、どこは目を通す程度で流すかです。この配分を決めずに作ると、プレゼンのコンセプトがぼやけてしまうので注意が必要です。
検討し決定した内容は、発表者ノートに台本として残します。スクリプトまで書き切っておくと、社内の担当者が変わっても資料の使い方を引き継ぐことができます。他の記事でも触れますが、組織で共有する資料の場合は、幾つかのポイントで他のメンバーへの配慮が必要です。
大枠が決まった後は、詳細原稿の制作に入りますが、その前に軽く構成のレビューをすることをお勧めします。紙芝居(絵コンテ)の形で並べることで、全体の流れのイメージを掴むことができます。また、聞き手がどう受け取るかのシミュレーションも同時に行う事ができるので、この段階である程度の流れを掴めれば、後々の修正の手戻りが少なくなります。
台本・構成レビューの段階では、スライドの見た目ではなく「聞き手の興味を引く順番になっているか?」をメインに確認します。見た目が仕上がってからでは、順番の入れ替えに手が付けにくくなります。
3. 「送る資料」は、薄いと検討から落ちる
送る資料でよく起きるのが、簡潔にまとめすぎて情報が足りなくなる状態です。
資料は複数の部門を経由する
送付した資料は、担当者の手元だけで完結するものではありません。法人向けの取引では、導入の判断に複数の関係者が加わり、法務・経理・情報システムなどの部門も資料に目を通します。想定していなかった部門から指摘を受け、確認や差し戻しによって判断までの期間が延びることもあります。
また、相手方の担当者が社内に説明できるのは、基本的に資料に書かれている範囲に留まります。必要な情報が記載されていなければ、確認の手間が増えたり、検討も足止めとなります。
見落としがちな点として、コンペなどで比較される場面では、それぞれの資料が横並びで確認されます。わかりやすさは前提として、他社に比べ、優位性や専門性が伝わるかといった点も評価対象になる、ということにも注意が必要です。
本編は簡潔に、Appendixで情報の厚みを確保する
一方で、すべての情報を本編に詰め込むと、資料は読みづらくなります。本編30枚と本編10枚を比べれば、後者のほうが簡潔で、全体像も把握しやすくなります。しかし、資料全体が10枚だけでは、比較や検討に必要な情報が不足する可能性があります。
そこで、本編とAppendixを分けて構成します。たとえば、本編10枚にAppendix20枚を加えれば、本編の読みやすさを保ちながら、資料全体として30枚分の情報を持たせることができます。 Appendixには、本編の内容を裏付ける詳細情報や、やや専門的な内容を収めます。必要な情報をすぐ確認できるだけでなく、情報の厚みそのものが専門性の裏付けにもなります。
Appendixはセクションとして区切り、目次から直接飛べるようにします。読み手が必要な箇所だけを開ける状態にしておけば、枚数の多さが負担になりません。この作りにしておくと、投影用に本編だけを抜き出す運用も取りやすくなります。
総量を10枚に収めるため、1枚あたりの情報を詰め込んで文字を小さくしている。簡潔にも見えず、読みにくい状態になっている。
本編10枚は1枚1メッセージを維持する。技術仕様・料金の詳細条件・概念図などはAppendixへ回し、セクション分けをして管理する。
4. 「送る資料」は、AIに読まれる場面にも備える
ここからは、現時点ではまだ一般化していないものの、今後を考える上で押さえておきたい資料の使われ方です。
複数社から資料をPDFで受け取るという状況は、以前から変わりません。変わったのは、複数のPDFをまとめて読み込ませ、要約や比較をさせるAIツールが誰でも使える状態になったことです。
この環境が整ったことで、たとえば4社分の資料をもとにした比較表も、担当者の手元で短時間に作成できます。すべての企業がこの方法を採用しているわけではないと思いますが、必要に応じて利用できる段階には入っています。
こうした比較では、必要な情報が十分に書かれていない資料ほど不利になりやすく、資料にない項目は、比較表にも反映されません。「実績多数」とだけ記載されている場合、件数や対象期間などの具体的な情報は「記載なし」として整理されてしまいます。担当者が文脈から汲み取っていた内容も、AIによる機械的な比較では明示的な情報として扱われにくくなります。
作成された比較表が、そのまま社内の検討資料として共有される場合もあります。現時点では、この使われ方を前提としたご相談はまだ多くありませんが、送付資料の作り方を考えるうえでは、すでに無視できない視点になりつつあります。
必要な情報量を確保すること。数値には対象範囲や算定条件を添えること。文字情報として読み取れる形式で作ること。この3点は、AIによる読み取りに対応するだけでなく、人が資料を読む際のわかりやすさにもつながります。
5. 人間に読めても、AIには読めない状況がある
一見、見た目に問題がなく、人が読める状態であっても、AIが正しく読み取れるとは限りません。特に注意したいのが、図や表、文字の扱いです。
| 資料の状態 | 起きること |
|---|---|
| 図を画像として貼り付けている | 文字を検索・コピーできず、情報が抜けることがある |
| 表を画像として貼り付けている | 行と列の対応を正しく認識できず、別の項目と結びつくことがある |
| 画像化した文字を使用している | 文字化け防止には有効だが、文字の検索やコピーができない |
| 見出しをテキストボックスで作っている | PDF上で見出し構造として認識されず、しおりや目次から目的のページへ移動しにくい |
パワーポイントのグラフや表は、サイズ変更によるレイアウト崩れが発生しやすいので画像化して配置される方も多いのですが、文字を検索・コピーできない、拡大すると粗くなる、など課題も残ります。送付用の資料では、こうした使いにくさを残さないことが大切です。
- 表と数値はテキストで作る。画像として貼らないようにする
- スライドの見出しは、テキストボックスではなくタイトルのプレースホルダを使用する
- 目次スライドから各セクションへ内部リンクを設定する
- 書き出したPDFを実際に開き、文字が選択できるかを確認する
6. 数値と事例の表記には根拠を添える
導入効果や実績を示す数値は、送る資料の中でも重視される情報です。数値そのものに加えて、何をもとに算出したのかが読み手に伝わる状態にしておく必要があります。
表示の正確性を支える仕組み
数値の見せ方に関係する法律として、景品表示法があります。景品表示法は、一般消費者による商品・サービスの選択を保護するための法律です。そのため、事業者間(BtoB)だけで完結する取引は、原則として同法の表示規制の対象にはなりません。
一方で、法人向けの営業資料であれば、表示の正確性を考えなくて良いというわけではありません。不正競争防止法では、商品やサービスの品質・内容などについて誤認を生じさせる表示を、不正競争の一類型として定めています。取引に用いる広告や書類、通信も対象に含まれ得るため、事業者間の取引でも関係する可能性があります。
※算定条件の記載がないことだけで、直ちに法律違反になるわけではありません。適用範囲や個別の判断は、社内の法務部門や顧問弁護士へのご確認をおすすめします。
実務では、数値の前提までスライドに載せる
効果や実績を示す場合は、数値だけでなく、その数値が何を表しているのかの付帯情報も資料内で確認できるようにします。
- 導入効果の数値に算定条件と対象範囲を添える。どの規模のどの業務で、何と比較した数値かを明記する
- 数値スライドに基準時点を入れる。脚注・注釈漏れなどに注意する
- クライアント事例を掲載する際は、掲載内容の許諾範囲を確認する
- 比較や優位性を示す表記は、根拠となる調査の出典と時点を併記する
明確な根拠や条件の表示が難しい場合は、口頭での補足に留めるなどの工夫が求められます。
7. 制作の進め方
見せる資料と送る資料のどちらを主に使うかは、商材と商談の形によって変わります。対面が中心なのか、問い合わせに対して資料を送る比率が高いのか。前提を整理した上で資料制作を進めるとスムーズです。
弊社ではこれまで3,000件以上の資料制作に携わり(2026年8月現在)、営業資料や提案書についても、投影して使うものから送付を前提としたものまで幅広くお手伝いしてまいりました。既存の資料をお預かりし、本編とAppendixの切り分け設計からのご対応も可能です。
8. まとめ
- 「見せる資料」は話し手が、「送る資料」は読み手が進行を担います
- 1枚の情報量と、資料全体の情報量は分けて考えます
- 「見せる資料」は、制作開始前に台本と構成を固めます
- 「送る資料」は、資料だけで判断できる情報量を持たせます
- 本編とAppendixを分けることで、簡潔さと情報量を両立が可能です
- 文字や表は、人にもAIにも読み取れる形で制作します
- 数値には、算定条件・対象範囲・基準時点を添えます
営業資料の制作をご検討の際は、現状の資料をお送りいただければ、本編とAppendixの切り分けなど、最適なプレゼン資料制作に向けた具体的な改善点をお伝えします。

