有価証券報告書のサステナビリティ図表|金融庁の好事例集とEDINET画像仕様を整理
有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」には、財務諸表のように全社共通の図表様式が用意されているわけではありません。図表を使うか、何を図にするかは、各社が開示内容に応じて判断します。
ただし、自由に作れるわけでもありません。図に載せる内容を考える際は金融庁の「記述情報の開示の好事例集」などが参考になり、実際にEDINETへ載せる画像にはファイル形式や容量、印刷サイズの条件があります。
この記事では、法令、SSBJ基準、好事例集、EDINET仕様の位置づけを分けたうえで、図表制作に関係するポイントを整理します。
本記事は、金融庁等の公開資料を図表制作の観点から整理したものです。個別企業の開示方針、SSBJ基準への適合性、具体的な提出可否については、社内の開示担当部署や開示書類作成会社などへご確認ください。
- 法令、SSBJ基準、好事例集、EDINET仕様は、それぞれ位置づけが異なる
- 好事例集では、図表に含める情報のつながりや定義の具体化が挙げられている
- EDINET用の画像には、形式・容量・印刷サイズの条件がある
- 図に載せた重要情報は、本文のテキストにも残すことが望ましい
1. 最初に分けておきたい4つの資料
サステナビリティ情報の開示をめぐる資料には、法令上の義務を定めたものもあれば、投資家等から見た望ましい開示をまとめたものもあります。図表制作に入る前に、まず位置づけを分けておく必要があります。
| 資料・ルール | 位置づけ | 図表制作との関係 |
|---|---|---|
| 企業内容等の開示に関する内閣府令 | 有報の記載事項や適用対象を定める法令 | 記載が必要な範囲の前提になる |
| SSBJ基準 | 対象企業が準拠するサステナビリティ開示基準 | 図に載せる情報の内容や定義に関わる |
| 記述情報の開示の好事例集 | 好事例と、投資家・アナリスト・有識者が期待するポイントをまとめた資料 | 情報の見せ方やつながりを考える参考になる |
| EDINET提出書類ファイル仕様書 | 提出データの技術仕様 | 画像形式、容量、印刷サイズを制約する |
有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が設けられたのは、2023年1月31日の内閣府令改正によるものです。2023年3月期決算企業から適用されています。
さらに、2026年2月の制度改正により、一定規模以上のプライム市場上場企業には、SSBJ基準に準拠した開示が段階的に適用されます。
| 適用時期 | 対象 | 2026年8月時点の位置づけ |
|---|---|---|
| 2027年3月期 | 平均時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業 | 公布済みの制度 |
| 2028年3月期 | 平均時価総額1兆円以上のプライム市場上場企業 | 公布済みの制度 |
| 2029年3月期 | 平均時価総額5,000億円以上1兆円未満のプライム市場上場企業 | ワーキング・グループで示された今後の方針 |
平均時価総額は、原則として対象事業年度の前事業年度末と、その前4事業年度末の時価総額の平均で判定されます。最新の適用対象と時期は、金融庁の内閣府令等の公布資料をご確認ください。5,000億円以上1兆円未満の企業については、2029年3月期からの適用開始がワーキング・グループで合意されていますが、2026年2月公布の改正府令には含まれていないため、表では位置づけを分けています。
2. 好事例集に示された図表の構成
図に何を載せるかを考える際に参考になるのが、金融庁の「記述情報の開示の好事例集2025」です。
ここで注意したいのは、好事例集が法令上の必須様式を示したものではないことです。資料には、実在企業の開示例とともに、投資家・アナリスト・有識者が期待する主な開示のポイントが掲載されています。
その中では、サステナビリティ関連の戦略について、特定したリスク・機会と取組の対応関係を明確に示すことが望ましいとされています。具体的には、次の流れで図表化することが有用とされています。※1
ガバナンスについても、会議体の名称を並べるだけでなく、監督と執行の役割分担、取締役会での報告・協議・決議の内容、各施策の実行責任者などを明確にすることが望ましいとされています。※2
組織図をそのまま転用するのではなく、図の目的に合わせて「誰が監督するのか」「誰が実行するのか」「どこで意思決定するのか」を読み取れる構成にする必要があります。
3. 「大・中・小」で止めない
好事例集では、財務影響を「大・中・小」といった抽象的な表現に留めず、金額レンジや閾値を定義することが望ましいとされています。時間軸についても、「短期・中期・長期」を年数で具体化することが挙げられています。※3
財務影響は「大」、時間軸は「中期」と記載されているが、判定基準や対象期間が示されていない。
「大」が何円以上を指すのか、「中期」が何年後までを指すのかを、図中または注記で明示する。数値の基準時点や算定の前提も併記する。
金額レンジの開示が難しい場合でも、判定に用いた指標の種類や基準時点を添えることで、読み手はどのような前提で評価されたものかを把握しやすくなります。
「マテリアリティ」の意味も書き分ける
サステナビリティ開示では、「マテリアリティ」という言葉の意味にも注意が必要です。
企業が「重要課題」として選定した項目を指す場合と、SSBJ・ISSB基準における「重要性がある情報」を指す場合では、同じマテリアリティという言葉でも意味合いが異なります。前者は企業が取り組む課題の選定、後者は投資家など財務報告書の主要な利用者の意思決定に影響する情報の選別です。SSBJ基準では、その意思決定に影響を与えると合理的に見込み得る情報かどうかが基準になります。※4
この違いは、図表の用語にも関わります。図のタイトルや注記では、「自社が定めた重要課題」を示しているのか、「SSBJ基準上の重要性」を踏まえた情報を示しているのかが分かる表現にします。「重要度」「影響度」といった軸を使う場合も、何に対する重要性・影響なのかを補うことで、意味の混同を避けやすくなります。
- 「重要度」「影響度」が、何に対する評価なのか分かるか
- 「大・中・小」に、金額や判定基準が添えられているか
- 「短期・中期・長期」に、対象年数が添えられているか
- 図と本文で、指標名や基準時点が一致しているか
4. EDINET用の画像には仕様がある
ここまでが主に「図に何を載せるか」の話です。実際に有価証券報告書へ図を載せる際は、EDINETの提出仕様も確認する必要があります。
EDINETではPDFファイルも提出できますが、主に添付文書などで使用されます。有価証券報告書の本文は、完成済みPDFをそのまま提出するのではなく、インラインXBRL等で作成します。EDINET上で閲覧できるPDFは、提出された本文データをもとに生成されたものです。
HTML本文から参照する画像について、EDINET提出書類ファイル仕様書には次の条件が記載されています。
| 項目 | 仕様書の記載 |
|---|---|
| 利用できる形式 | GIF・JPEG・PNG |
| 1ファイルの容量 | 300KB以下 |
| 画像を使用できる対象 | 図に関してのみ(事業系統図、ファンドの関係法人図等が例示されている) |
| 印刷サイズ | A4用紙1ページ内にすべて印刷できるサイズ |
この条件を踏まえると、統合報告書などで使用した図を、そのまま転用しにくい場合があります。見開きや横長を前提にした図、項目数や注記が多い図は、A4内に収めたうえで容量を抑えると、文字や数値が読みにくくなるためです。転用する場合は、情報量を絞る、図を分ける、文字サイズを調整するなど、EDINET用に再構成する必要があります。
個々の図がEDINET仕様上の「図」として扱えるかは、提出実務にも関わります。使用可否に迷う場合は、実際の提出を担当する部署や開示書類作成会社への確認が必要です。
5. 図の情報をテキストにも残す
好事例集2025の「各テーマ共通」のポイントでは、AI等を利用した分析手法の広がりに対応するため、図表だけでなくテキストでも記載し、機械可読性と分析可能性を高めることが有用とされています。※5
画像内の文字もOCRや画像認識で読み取られることはありますが、本文のテキストと同じ精度で抽出・分析されるとは限りません。重要な数値や算定条件が画像の中にしか存在しない場合、機械的な比較や検索で拾われにくくなる可能性があります。
図に載せた要点を、本文の文章やHTMLの表にも残しておくことで、人が見たときの分かりやすさと、データとしての扱いやすさを両立できます。
図は情報の関係を分かりやすく伝えるために使い、重要な数値・定義・基準時点は本文にも記載します。図を参照しなくても、開示の要点を確認できる状態にしておきます。
6. 有報と任意開示の役割を分ける
有価証券報告書と、統合報告書・サステナビリティレポートでは、求められる役割と制作上の自由度が異なります。
好事例集では、有報と任意開示の役割分担を整理し、重複回避と深掘りを両立することが有用とされています。有報には投資家の意思決定に必要な要点をSSBJ基準に準拠して集約し、詳細情報は統合報告書等へ誘導する形が例として挙げられています。※6
ただし、媒体を分けても、指標の定義、数値の基準時点、対象範囲は整合している必要があります。同じ名称の指標が、媒体によって異なる定義や数値にならないように確認します。
開示方針の策定、適合性判断、有価証券報告書の作成・提出等は、各クライアント様の担当業務とはなりますが、弊社では、内容が確定した原稿や数値をもとに、説明資料の情報整理・スライドデザインを行っています。
7. まとめ
- 法令、SSBJ基準、好事例集、EDINET仕様では、位置づけと役割が異なる
- 好事例集には、リスク・機会から財務へのつながりまでを図表化する構成が、投資家等の期待するポイントとして示されている
- 「大・中・小」「短期・中期・長期」等の表現には、可能な範囲で金額や年数の定義を添える
- EDINET用の画像はGIF・JPEG・PNGで、1ファイル300KB以下、A4用紙1ページ内に収まるサイズとする
- 重要な数値や条件は図だけに閉じ込めず、本文のテキストや表にも残す
- 有報と任意開示で情報量を分けても、共通項目の定義と基準時点は揃える
8. 出典
本文中の「※」は、金融庁「記述情報の開示の好事例集2025」(2026年3月27日公表)の記載を指します。整理番号は資料の各ページ右上に印字されているものです。(2026年6月現在)
| ※ | 本文の箇所 | 資料内の節(整理番号) | 分割版 |
|---|---|---|---|
| 1 | リスク・機会から財務へのつながりまでの構成 | 期待する主な開示のポイント:全般、気候(1-1) | 01.pdf |
| 2 | ガバナンスの監督と執行の役割分担 | 期待する主な開示のポイント:全般、気候(1-1) | 01.pdf |
| 3 | 財務影響の金額レンジと時間軸の年数 | 期待する主な開示のポイント:全般、気候(1-2) | 01.pdf |
| 4 | 「マテリアリティ」の2つの意味 | 期待する主な開示のポイント:サステナビリティ共通 | 00-3.pdf |
| 5 | 図表だけでなくテキストでも記載 | 期待する主な開示のポイント:各テーマ共通 | 00-2.pdf |
| 6 | 有報と任意開示の役割分担 | 期待する主な開示のポイント:各テーマ共通 | 00-2.pdf |
このほか、本文中に直接リンクを置いた資料として、金融庁の内閣府令等の公布資料、『アクセスFSA』第270号、EDINET提出書類ファイル仕様書があります。
※ 本記事は公開時点で入手できる公開情報をもとに作成しています。内容には万全を期していますが、その正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。法令や制度は改正される場合があります。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、弊社は責任を負いかねます。個別の判断については、社内の担当部署や専門家へご確認ください。
確定した原稿や数値をもとに、図版や説明資料へ落とし込む作業についてご相談を承っております。既存のレポートの図を、別の媒体向けに整理し直す作業にも対応しております。


