採用ピッチ資料の構成順|項目リストだけでは決まらない3つのこと
採用ピッチ資料の作り方を調べると、載せるべき項目の一覧が出てきます。会社紹介、事業紹介、組織図、企業文化、募集要項。十数項目から二十数項目が並び、そこから選んでスライドにしていく形です。
項目は、それで揃いますが、状況に応じて必要な項目を抽出する必要があります。また、どの順番で並べるか、どのパートを何枚にするか、どこまで載せてどこから先は別の資料に回すか。ご相談をいただくのは、この段階に入ってからがほとんどです。
弊社で採用資料の制作に携わってきた経験から、構成を決める際の判断基準を整理しました。
- 採用ピッチ資料と会社説明会スライドの違い、それぞれの使い分け
- 候補者が読み進めやすい構成順と、パートごとの枚数の目安
- 1本の資料に載せる情報と、選考段階ごとの別資料に回す情報の線引き
- 社員数や離職率といった数値を載せる際に押さえておく法制度
1. 採用ピッチ資料と会社説明会スライドは別物として設計する
見た目が似ているため混同されがちですが、この2つは用途が異なる場合が多いのも特徴です。会社説明会のスライドには話者が存在し、スライドに書かれていない部分はその場で口頭が補います。
一方採用ピッチは比較的カジュアルな使われ方をされることが多く、独り歩きすることも少なくありません。応募者が自分のペースで、1人で読み進めることも多くあります。既存の会社説明会用スライドをそのまま採用ピッチ資料に転用したい、というご相談は実際によくいただきます。
| 会社説明会スライド | 採用ピッチ資料 | |
|---|---|---|
| 読まれ方 | 話者が補う | 単独で読まれる |
| 1枚の情報量 | 少なくてよい(話が主役) | 少なくする(読ませるため) |
| 読む速度 | 話者が制御する | 読み手が制御する |
| 読まれない時に起きること | その場で補足できる | 離脱して戻ってこない |
どちらも「1枚の情報量は少なく」に行き着きますが、それぞれ理由は異なり、説明会スライドはトークが主体だから原稿は少なくて済む。一方ピッチ資料は読ませる必要があるから少なくする。 同じ結論でも、削る対象が変わるという訳です。
採用ピッチ資料の分量は、全体で20枚程度が扱いやすい範囲です。1枚あたりの情報量を抑え、簡潔にまとめる事をおすすめします。紙芝居のように読み進められる作りが機能します。
枚数を減らそうとして詰め込むと逆効果になる
では、なんとかして枚数を20枚に収めようと文字を小さくして1枚に情報を詰めると、30枚で余白のある資料より読まれなくなるので注意が必要です。
調整するのは枚数ではなく、掲載する情報の量です。実際の制作では、削るのではなく「別の資料に移す」判断をすることが多くあります。
会社概要・事業内容・拠点一覧・沿革を詰め込み、網羅性は高いが易読性・視認性が悪化している。
会社概要は事業の説明に統合して1枚。拠点一覧と沿革は簡単に1枚にまとめる。参考情報はAPPENDIXへ。
2. 載せない情報は「選考段階ごとの別資料」に振り分ける
削った情報を捨てる必要はありません。読ませるタイミングをずらすことで利用する機会はあります。
| 段階 | 資料 | 載せる情報 |
|---|---|---|
| 認知・母集団形成 | 採用ピッチ資料 | 事業、職務、組織文化、条件の概要、選考プロセス |
| 選考中 | 職務別の補足資料 | 具体的な業務範囲、配属予定チームの体制 |
| 内々定・内定者向け | 詳細資料 | 社内規則、評価制度の運用、昇給の実例、福利厚生の詳細 |
昇給の実例や社内規則は、候補者にとって重要な情報です。ただ、まだ応募するかどうかを決めていない段階では優先順位は高くない事が多いです。全部載せようとすることが、ピッチ資料を読まれにくくしています。
この振り分けを先に決めておくと、ピッチ資料側の構成を決めやすくなります。
3. 構成順は候補者の意思決定順に合わせる
多くの資料が会社概要と沿革から始まります。お預かりする原稿にもしばしば見られる形です。 ただ、候補者の関心が必ずしもその順に並んでいるとは限らないので注意が必要です。
中途採用を想定した構成順と枚数の目安
- 何をやっている会社か(4〜6枚)— 沿革ではなく、現在の事業から入ります
- なぜ今伸びるのか(3〜4枚)— 市場環境と自社の位置。ここが薄いと「安定していそう」で止まります
- 自分は何をするのか(4〜5枚)— 募集ポジションごとの業務範囲
- 誰と働くのか(5〜7枚)— 組織構成、文化、社員の顔と言葉
- 条件と制度(2〜3枚)— 給与レンジ、勤務形態、評価の考え方
- 選考プロセス(1〜2枚)— 何回、誰と、どのくらいの期間で
厚くなりやすいパート例
- 沿革:細かい情報などを載せると文字量が増えます
- メッセージ系:会社が「伝えたい事」は熱量がこもりがちです
- 福利厚生・社内制度:制度の詳細はあまり知られてないことも
いずれも社内では重要度が高い情報です。ただ、候補者の意思決定には寄与しづらい面もあるため、分量の配分には注意が必要です。
社内で削る判断がつかない場合、パートごとに「これを読んだ候補者が次に何を知りたくなるか」を書き出すと、順番と過不足が同時に見えます。
4. 数値を載せる前に押さえておく法制度
社員数、平均年齢、売上、成長率、離職率。採用ピッチ資料には数値が入ります。ここには根拠となる制度があります。
根拠:改正職業安定法の的確表示義務
2022年10月1日に施行された改正職業安定法により、求人情報の的確な表示が義務付けられました。この義務は人材紹介事業者だけでなく、採用活動を行う一般企業も対象に含まれます。
- 虚偽の表示、誤解を生じさせる表示の禁止
- 情報に変更が生じた場合に、最新・正確な内容に保つ措置
- 求人情報がいつ時点のものかの明示
誤解を生じさせる表示の例として挙げられているのが、子会社での勤務なのに親会社で勤務するかのように表示すること、上場していないのに上場企業であるかのように表示することです。
実務では:資料設計にどう落とすか
制度の話で終わらせず、スライドの作りに置き換えます。
- 数値スライドに基準時点を入れる(「2026年3月末時点」)。グラフの脚注ではなく、スライド内に読める大きさで
- 集計範囲を添える。単体か連結か、正社員のみか契約社員を含むか
- 募集主体と勤務先の表記を分ける。グループ会社勤務の場合はその旨を明記
- 更新が前提になることを織り込んだ作りにする(後述)
基準時点の記載がないままの数値スライドをお預かりすることは少なくありません。載せるか載せないかの判断以前に、載せた数値の性質を読み手が特定できる状態にしておく。ここが設計側で担保できる部分です。
個別の表示が的確表示義務に照らしてどう評価されるかは事案によります。判断に迷う箇所は、社内の法務部門や専門家への確認をおすすめします。
5. 新卒採用では提供が求められる数値がある
根拠:若者雇用促進法の青少年雇用情報
若者雇用促進法により、新卒者の募集を行う企業は、企業規模を問わず幅広い情報提供が努力義務とされています。さらに応募者等から求めがあった場合は、次の3類型ごとに1つ以上の情報提供を行うことが義務です。
| 類型 | 含まれる項目の例 |
|---|---|
| (ア)募集・採用に関する状況 | 過去3年間の新卒採用者数・離職者数(男女別)、平均勤続年数 |
| (イ)職業能力の開発・向上に関する状況 | 研修の有無および内容、自己啓発支援、メンター制度 |
| (ウ)職場定着に関する状況 | 前年度の月平均所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数、育児休業取得者数 |
実務では:載せるか迷う前に整理する
離職率や残業時間を資料に載せるかどうかは、方針だけで決められる話ではなく求めがあれば提供することになる情報とされています。
聞かれてから個別に回答するより、資料に組み込んでおいたほうが対応の手間は減ります。数値の見せ方については、また別の記事で詳しく扱います。
6. 投影と印刷を1つのファイルで両立させる
採用ピッチ資料は、画面で読まれ、会場で投影され、印刷して配られます。この3用途で版を作り分けている事例は、実際にはほとんどありません。
その場合、作り分けずに元のPowerPointをA4横(297mm × 210mm)で作っておくと便利です。この設定なら、投影にも印刷にも耐えます。
16:9で作った資料を後からA4に印刷すると、上下に余白が出るか、拡大されて文字が切れます。この段階でご相談をいただくケースが多くあります。最初にA4横で作っておけば、この手当てが発生しません。
パワーポイントの「デザイン」→「スライドのサイズ」→「ユーザ設定のスライドのサイズ」から、A4サイズを指定しても、厳密なA4サイズになりません。この場合、幅に「29.7cm」高さに「21.0cm」と手入力してください。また、印刷会社に発注する際は各印刷会社の指定や配布テンプレートを参照してください。
投影がメインの用途となる場合、会場のモニタやプロジェクターの仕様をあらかじめ確認しておくことをおすすめします。
7. 改訂を前提にした作りにしておく
採用ピッチ資料で最初に古くなるのは数値です。従業員数、平均年齢、平均勤続年数、有給休暇の取得日数。いずれも毎年動きます。
PowerPointであれば更新自体は簡単です。手間になるのは、差し替え箇所が資料内に散っている状態です。同じ社員数が会社概要と組織のパートとAppendixの3か所に書かれていると、1か所が旧数値のまま残ります。前の見出しで触れた「最新・正確な内容に保つ措置」との関係でも、避けておきたい状態です。
- 同じ数値を複数のスライドに書かない。参照が必要なら「P.4参照」で処理する
- 年次で動く数値を1〜2枚に集約し、そのスライドに基準時点をまとめて記載する
8. 制作の進め方
採用資料は、企業ごとに用途と期待する効果が異なります。母集団形成が目的なのか、内定辞退の防止なのか、ミスマッチによる早期離職の抑制なのか。 目的が変わると構成も分量配分も変わるため、テンプレをそのまま当てるのは却って手間な事が多いです。
弊社ではこれまで3,000件以上の資料制作に携わり(2026年8月現在)、採用関連の資料も新卒・中途の双方でお手伝いしてまいりました。納期や費用は通常のプレゼン資料制作のプランに準じ、概ね数週間で形になります。
原稿が固まる前でも着手可能な場合があり(文言が確定していなくても設計できる)ますので、ある程度の納期調整も可能です。
9. まとめ
- 項目リストだけでは、順番・分量・情報の範囲は決まりません
- 全体20〜30枚が目安。枚数を減らすために詰め込むと逆効果になります
- 載せない情報は捨てず、選考段階ごとの別資料へ振り分けます
- 数値には基準時点と集計範囲を添える。職業安定法の的確表示義務の対象です
- 新卒採用では、離職率や残業時間は求めがあれば提供することになる情報です
- A4横(297 × 210mm)で作れば、投影と印刷を1ファイルで両立できます
採用ピッチ資料の構成でお困りの際は、現状の資料をお送りいただければ、構成順と分量配分の観点から具体的な改善点をお伝えします。


